○はじめに
イオンが高速で動く固体(イオニクス材料)を基軸として、蓄電・発電デバイスの課題解決に繋がる新規物質の開発に取り組んでします。電池材料は、イオニクス材料を母物質として開発されます。しかし、候補となるイオニクス材料の少なさと、電池に求められる複数の物性を物質に発現させる難しさから、電池材料の少なさが、次世代エネルギーデバイス開発を著しく困難にしています。
この解決のために、新規イオニクス材料の探索、電池に求められる物性の発現要因を、物質の構成元素や化学結合、構造物性から深く理解し、その知見に基づいて独創的な電池材料を創出しています。既存の材料に制約された電池開発から脱却することで、より高効率で高エネルギー密度なエネルギーデバイスの実現を目指しています。
○水素を用いたエネルギーデバイスのための新規物質開発
水素は周囲の環境により、カチオンにもアニオンにもなる非常にユニークな元素です。水素を用いたエネルギーデバイスとしては、燃料電池が有名ですが、デバイスの性能を決定づける作動温度は、固体電解質中でイオンが高速で動く温度で決定されます。プロトン(H+)拡散には、その独特な拡散機構や、生物の代謝に共通するといった学術的な面白さもありますが、水素を用いたエネルギーデバイスの開発を念頭におくと、プロトン導電体は、電位窓の確保の点でヒドリド導電体とは異なる魅力があると考えています。しかし、プロトン導電体は、車載用の燃料電池への応用や水素を用いた新規反応の開拓に適する(触媒反応に適する)150-300度を含む中温域で安定に作動する物質の開発が、極めて難しい課題となっています。
これは、物質中の水素結合に由来する問題となっています。プロトンの高速拡散には水素結合の結合力が弱い方がいいのですが、結合力が弱いと物質の構造が熱的に不安定になり、水素結合が強固だとその逆のことが課題となるというトレードオフの関係があるためです。
プロトン拡散は、液や有機物、無機物、MOFなどの様々な物質で研究されていますが、既存の物質の設計指針では、上記の課題解決は困難なままです。我々は、不燃である無機物の中でも、水素結合が200度付近でのプロトン拡散に適する(200度付近をプロトン導電率のピークとなるように)と期待されるリン酸塩に着目し、その結晶を求める機能ごとに部位を分け、各機能に応じた化学結合を活用する独自の物質設計を立案し、新規材料の開発を進めています。
超広域温度帯で作動するプロトン固体電解質の物質設計
①熱的安定性の確保:一次結合のみで形成されたトンネル骨格
②H+の高速拡散:リン酸とH+の水素結合を活用した水分子鎖
③中温でのH+の拡散:配位結合を使用した結晶水の配位サイト
必要な機能に応じた化学結合を活用する工夫を新たに導入することで、上記の課題を克服し、室温から500度付近の中温度域で高いプロトン拡散能を発現する新規物質群を見出しました。
現在は、導電率の更なる向上を目指した物質開発や、触媒反応に適する温度域で新規反応の発見を目指して研究を展開しています。
我々が発見した新規プロトン導電体の結晶構造と、既存の代表的なプロトン導電体の導電率との比較.
イオンの配列から物質を設計することで、既存材料では達成できなかった超広域温度帯で作動する新規構造体を開発した.
○全固体リチウム二次電池に関する研究
我々の研究室では、新規リチウム固体電解質の開発を中心に全固体リチウム二次電池の研究を進めています。
酸化物系リチウム固体電解質では、①室温でのリチウムの高速拡散、②広い電位窓(酸化や還元が起こりにくい)、③低温での焼結性という全てを同時に実現するには大変な3つの特性が求められます。酸化物を用いた全固体電池の作製の困難さは、その根底に、固体電解質の焼結温度が、活物質と固体電解質との反応が起こる温度よりも高いことがあります。そのため、電位窓の確保が見込まれる構成元素を選択した上(低温相結には一般的には不利となりますが)で、300℃付近で焼結する新規リチウム固体電解質の開発に取り組んでいます(材料設計の指針や詳細について興味のある方はご連絡ください。)。まずは、材料に由来する課題を解決してデバイス作製を容易化することで、固体電池の高出力・高容量化につながる材料およびデバイスの開発を進めていく予定です。
硫化物系についても、硫化物の特徴を念頭においた新規材料の開発を開始しました。この研究内容の詳細については、今後改めて掲載します。
水素、リチウム問わず、研究に興味をもたれた方はいつでも気兼ねなくお越しください。